金曜日の夜、何時もの様に3人組がオタフクの専用の部屋に集まって盛り上がって居た。3人組は店の者達から、おみくじ3人組と呼ばれていた。

 3人をおみくじ3人組、と最初に呼び始めたのは店主の政則であった。何故店主の政則が呼び始めたかと云うと、3人の名前の中に吉の字が入っていておめでたいと思ったからであった。

 1番年嵩は大吉、2番目は永吉、3番目は長吉であった。大吉は60代、永吉は40代、長吉は20代の3世代である。オタフクの店を最初に見つけたのは大吉で、今から45年前仕事を終えた帰り道であった。その日は週末金曜日で、おたふくの新規開店日であった。大吉は帰り道で華やかな花輪を見つけ、灯りと花輪に誘われ躊躇なく暖簾をくぐったのが始まりであった。

 永吉と長吉は大吉が通うスポーツクラブの仲間で、今から5年前に大吉が2人をオタフクに連れて来たのが始まりであった。今夜も1番乗りは大吉で1人で専用部屋で呑んで居ると、暫くして永吉と長吉が一緒に部屋に入って来た、2人が腰を落ち着けると大吉の音頭で乾杯をした。「今日も1日お疲れ様‼」3人はグラスのビールを呑み干した。

 今日の3人の話題は、先週と同じ命についてであった。最初の話題は、若手人気俳優の突然の自殺に関してであった。彼は若手といっても4歳からこの道に入り、芸歴は26年にも成るベテランであった。彼はまだ30歳の若者であり、数年先のスケジュールも決まっていたと云う。彼は7歳の時には天下のNHK朝ドラでデビューして、それからはテレビに舞台に歌と活躍の場所を広げて行き未来は約束されていた。

「俺は驚いたよ‼長さん、彼は長さんよりも少しだけ年上だろう⁉何でも数年先までのスケジュールが決まっているんだって‼何があったか知らんけど死ぬなよ❗」

「大さん俺も驚いたよ‼男前で背の高い人気俳優が自殺するなんて思いもしないよ‼もしも俺が同じ様な俳優だったら絶対に自殺なんかしないよ‼その俳優は長さんより2歳年上だったよなあー?」

「大さん、永さん俺も信じられないよ‼俺も永さんと同じで、もし同じ様に俳優だったら自殺せずに俳優をやめて違う仕事をするよ‼」

「華やかな世界に住む彼には、自分の周りに人生について相談する人が居なかったのかなあー?永さん、長さんには相談する人が居るかい⁉」

「大さん俺も居なかったよ!長さんも同じだと思うよ‼俺達40代30代20代以下の世代には案外相談出来る人が居ないのと違うかなあ‼。しかし、俺も長さんも大さんと出会ってからは、酒を呑みながらお互い気楽に相談をするけどね❗」

「永さんの言う様に俺達3人は、お互いに相談するから良いけど今の若者は悩み事があるとSNSを頼るんだよ‼」

 大吉は若い時に自分が悩んだ事や、死を考えた事を永吉と長吉に話しをしたのであった。そして、自分自身で色々と模索して克服した事を話し始めた。大吉は自分の若い頃、自分が全てに消極的で物事から逃げる傾向の性格の為に他人との付き合い方が下手で悩んだ事を話しをした。

 周りに相談が出来る人が居なかった大吉は、本屋に通い色々な本を読み漁った。成功者の本、宗教の本、哲学思想の本を読み漁ったのであった。哲学の本は難解で、大吉には難しくて理解が出来なかったのであった。成功者の本を読んだ時には、成功者は全てに対して前向きに努力をして学び難問を克服して行った事は理解出来た。しかし、今の自分には無理だと思う大吉であったが、本の中にあった前向きに生きる為の人生7ヶ条は大吉の心を捉えたのであった。

 宗教の本も大吉は何種類か読み漁り、辿り着いたのは松原泰道師の般若心経入門であった。泰道師の般若心経の解説は、大吉にも分かり易く大吉は心が洗われる気がしたのであった。

大吉の60数年の人生の中で、大吉に生きる道を教えたのは思想家中村天風の「運命を拓く」と云う書物であった。大吉はこの本に出会ってから、約20年の時を経て読み返す事に成るのであった。

「俺は成功者物語の本を色々と読んで見て感じた事は、成功者の全員が努力家だと分かった事だよ‼楽して成功したい、と思っていた自分が恥ずかしかったよ❗」

「大さん俺も成功者にあやかりたくて成功者の本を読むけど、俺には真似出来ないよ‼長さんはどうだい?」

「大さん、永さん俺達は成功者の事を書いた本を読む事はないね!俺達はワンピースやキングダムから人間関係を学ぶ事が多いよ‼」

「そうか、それも良いかも知れないね‼俺も子供が居るからキン肉マン、ドラゴンボール、ワンピースの漫画は見るよ、特にワンピースは面白くて大好きだよ‼」

「大さもワンピースが好きかい‼俺も大好きさ、長さんも勿論好きだよね⁉」

「ああ大好きさ、ワンピースの中に描かれている友を大事にするルフィが好きなんだ❗」

 大吉も永吉も長吉も世代は違えど、3人はワンピースが大好きですあった。きっと世代を超えて心を打っものが有るのだろう。

 大吉は成功者の物語を読んで、尊敬出来る1人の人物に出会ったのであった。

「俺なあ色々な成功者の本を読んで、尊敬出来る人に合ったんだ‼それは松下幸之助さんだよ‼この人は若い頃より病弱で、長期療養したりしながら病と上手く付き合って前向きに物事を考えて松下財閥を一代で築いた人なんや❗それに自分より弱い者にも目線を下げて話しをする人なんや❗」

 大吉は松下幸之助さんの言葉を、永吉と長吉に披露したのであった。

 失敗したところで やめてしまうから 失敗になる 成功するところまで 続ければ それは成功になる

 大吉は松下幸之助さんの、この言葉が大好きであった。それからもう一つ、誰が書いた物か忘れてしまったが大吉の好きな文があったそれは人生7ヶ条である。

 1 命

  この世に生まれて来た事に感謝して、命を大切にして人生を全うする。

 1 健康

  人生を全うするには、身体が健康でなければならない。

  あらゆる物事を、実現するにも健康は必要である。

 1 財力

  物事を実現するには、財力が必要である。常日頃から貯蓄を心掛けるべし。

 1 知識

  多くの知識を持っ事は、物事を総合的に判断する時の力と成る。また、自分自身の心を豊かにして

  心に余裕をもたらす。

 1 智恵

  学歴があり知識が豊富でも、創意工夫して応用する智恵がなくては物事は成功しない。

 1 調査

  物事に取り組み実行する時は、必ず計画に関わる全ての事を調べる事。

 1 勇気

  人生に於いて何かを決断する時は、一歩を踏み出す勇気が必要である。

 大吉は心に平穏を得るために宗教の本を幾つか読んで、般若心経に出会った事を永吉と長吉に話をした。般若心経の事を書いた書物は多くあったが、大吉が選んだのは松原泰道師の書いた般若心経入門であった。泰道師の般若心経の解説は、大吉にも分かり易く心が洗われる気がしたのであった。

「永さん長さん知っているかい般若心経は276文字の経典だけど、釈尊の教えの全てを現しているんだって❗」

「大さんだからこそ日本の仏教の、どの宗派でも般若心経を唱えるんだね‼」

 大吉は泰道師の般若心経入門の中に書いてあった、高田好胤師の言葉を永吉と長吉に披露した。

「かたよらないこころ、こだわらないこころ、とらわれないこころ、ひろく、ひろく、もっとひろくーこれが般若心経、空のこころなり」と言う言葉であった。

 その他に白隠禅師の「観自在菩薩とは余人にあらず、御身自身なり」

 一休禅師の「よもすがら ほとけの道をたずねれば わが心ににぞ たずねいりける」

 大吉は3禅師の言葉を知って、心が穏やかに成ったのであった。

「大さん俺は高田好胤師の、かたよらないこころ、こだわらないこころ、とらわれないこころ、ひろく、ひろく、もっとひろくー これが般若心経の空のこころなり、と言う言葉が前にも言ったけどやっぱり好きやなあ‼」

「大さん永さん俺は一休禅師の、よもすがら、ほとけの道をたずねれば、わが心ににぞ、たずねいりける。これって人は皆仏の心を持っている、と云う事やろ⁉俺にも心の中に仏の心があると思うと嬉しいよ❗」

「永さん長さん俺は3禅師の言葉を知って、禅師のどの言葉全て大好きに成ったよ❗」

 般若心経の話しで盛り上がって皆の心が和んだ所で、大吉は永吉と長吉に自分が大腸癌の手術をした事を話しをした。

「大さん大腸癌の手術を受けたのかい?長さん知っていたかい?」

「永さんと同じで、俺も今知っ所だよ⁉」

「俺の大腸癌は大分前の事なんだよ、今から19年前の49歳の時に手術をしたんだ」

「大さん癌て色んなステージがあるんだろ?良かったらステージを聞いても良いかい⁉」

「永さん長さん、俺のステージは3Bだったよ」

「大さん永さん俺も良く癌のステージを聞くけど、ステージ3はステージの下から3番目でステージ4の場合殆どの人が死ぬと聞いたよ‼」

「永さん長さん俺もステージ3Bと聞いて、驚いたしステージ3の中でも悪い方のBと聞いて死を覚悟したんだよ」

 大吉は手術を受ける前年の秋頃から、背中の腎臓辺りに鈍い痛みを感じる様に成っていた。会社での秋の健康検査の結果、貧血で再検査を受ける様に言われていたのであった。しかし、大吉は家族が入院中の為に、そちらを優先して検査を受けなかったのであった。翌年の春の検査でもやはり、貧血の検査の結果が出て再検査を受ける様に書いてあった。しかし今回も、家族が退院する9月初旬まで待つことに事にして、9月の終わりに家庭医の紹介で大きい病院で再検査を受けたのであった。検査の結果はその日に分かり癌と宣告され、10月の初旬入院して手術をする事に成ったのであった。入院して最初の4日間は、手術の為の体調を整える為に費やした。大吉は5日目の昼1番に、手術室に入り4時間の手術を受けて手術は成功したのであった。

 今回の入院で死を覚悟した大吉は、入院前に昔読んだ思想家中村天風師の書いた「運命を拓く」を探し出して病院に持って行ったのであった。手術前4日間、ベッドの上で改めて読み直したのであった。

「俺なあ大腸癌になるまでは毎日をただ漠然として過ごして来ていたんやけど、死ぬかも知れんと思った時に昔読んだ思想家中村天風師の{運命を拓く}を読んだんや‼本には生きる為のすべが書いてあって、読み返すうちに日々の生き方を変える事にしたんや‼」

「大さん俺達には、良く分からけど何を変えるんや⁉」

「あのなあ一日を一生と考えて生きようと思っているんや‼」

「大さんそれは、どう言う事なんや?」

「それはな!一日一生と考えて、全ての事に対して手抜きなしで一日を力強く生きて、やり残しの無いように生きる事なんや‼自分の寿命は一日やと思って生きる事なんや❗」

 大吉は運命を拓くの中に、書いてあった文を永吉と長吉に披露するのであった。

  甦りのしょう句

 我は今、力と勇気と信念とをもって甦り、新しき元気をもって、正しい人間としての本領の発揮と、その本文の実践に向かわんとするのである。我はまた、我が日々の仕事に溢るる熱誠をもって赴く。我はまた、欣びと感謝に満たされて進み行かん。一切の希望、一切の目的は、厳粛に正しいものをもって標準として定めよう。そして、恒に明るく朗らかに統一道を実践し、ひたむきに、人の世のために役だっ自己を完成することに努力しよう。

 大吉は朝目覚めると生きている事に感謝して、この言葉を声を出して唱えるのであった。これ以外に大吉が唱えるもう一つの言葉があった。それは自分を、鼓舞する為に唱える言葉であった。

  力のしよう句

 私は、力だ、力の結晶だ。何ものにも打ち克つ力の結晶だ。だから何ものにも負けないのだ。病にも、運命にも、否、あらゆるすべてのものに打ち克つ力だ。そうだ!強い、強い、力の結晶だ。

 大吉は大腸癌の手術が成功した日から16年、毎朝この言葉を唱えているのであった。この2つの言葉は死を間近に感じた、大吉には安らぎの言葉と成っているのであった。

 平成23年にALSを発症した女性が、令和1年SNSで知り合った医師2人に安楽死を依頼して自ら命を絶った。彼女は発症以来、生きる為の努力を懸命にしてきた眼球の動きで操作が出来るパソコンを利用して。外界とブログを利用して、会話しながら懸命に生きてきた。しかし、平成が終わり令和が始まる頃、自力でのまばたきも、難しくなつて来たことを知った。外界との会話が出来る事に、生きる望みを託してきた彼女は絶望して死を選んだ。そんな彼女を誰が責める事ができようか!彼女の死に手助けした医師を誰が責める事が出来ようか!

「大さんよう、何で国は安楽死を認めないんだ!」

「永さん長さんそれは、国会議員が安楽死法案を立案して批判される事を!恐れて逃げたんだよ‼」

 安楽死をめぐる事件で、医師が立件された事件は平成3年、8年、14年、15年、18年と5件もある。平成3年から約30年の間、法律を立案して法律を作る国会議員は何をして来たのか?安楽死に関する法律がないため、幾人もの人達が心に傷を受けて苦しんだのである。安楽死に関する法律に手を付けなかった、国会議員の責任は与野党問わず重いのである。京都の安楽死事件を最後にして、早く安楽死に関する法律を作るべきや、と大吉が永吉と長吉言った。そして、大吉が見えぬ相手に向かって叫んだ❗

「 病気でもなく動ける身体の者、生きて動ける事に感謝して一日一日を懸命に生きてみろ❗❗きっと何かが見えて来るから毎日を目一杯懸命に生きろ❗❗」

 

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